鳳凰三山で尻干し (私の大学時代の友人Mは、ちょっと変わった男で…)

鳳凰三山で尻干し

学生時代のこと。

仲の良かった大学のクラスメートのMが、ある日言った。
「真夏にアルプスに登りたいから、計画を立ててくれ」

私もMも、登山が好きということではない。
私はその数年前、北海道の牧場でアルバイトをした帰りに、ひょんなことから知床の羅臼岳に登り、それで少し夏山歩きをかじっていた程度だし、Mはアルプス級の登山は未経験だった。

「それにしても、なぜ突然に山歩きなど?興味なさそうだったが…」
というのが、私の疑問だった。
何かの雑誌(夏山JOYとか…今も発刊してるのか?)で夏山の景観写真でも見て行きたくなったのだろうか?

「人が少ないところで、ゆっくり日向ぼっこしたいんだ」
と、Mは希望を言った。

日向ぼっこ?
何か人生に疲れたのか?
その辺の公園とかではダメなのか?

私は山に詳しいわけでもなかったが、南アルプスの鳳凰三山縦走に決めた。
平日なら人が少なそうだし、縦走中に私の好きな北岳を眺められる。
その後計画を知った私の弟も、その山行に同行することになった。

1日目は平川峠越えの林道を歩き、御座石鉱泉付近にテントを張った。
2日目は、鳳凰小屋裏のキャンプ場で寝た。 翌日が縦走である。

快晴とまではいかなかったが、まずまずの天候だった。
平日ということもあり、 縦走路には、ほとんど登山者がいなかった。

地蔵岳から観音岳を過ぎ薬師岳に着いたとき、Mが、
「ここがいい!ここは薬師岳だろ。名前からして効きそうだ」
と、力強く言った。
「?」


薬師岳(実際のその日の写真参照)には砂地のような広場があり、大きな岩が重なったような地形になっている。
地蔵岳のオベリスクは有名だが、薬師岳にも巨岩がたくさんある。

Mは、
「悪いけど、ちょっよ見張っててくれ」
と言いながら、服を全部脱いだ。

んん?

「尻を太陽光線で干す」

尻を?干す?

Mは大きな岩を登り、風は避けられるが太陽光は当たるという場所を探し当て、裸の尻を太陽に向けて寝そべった。
私と弟は、その奇岩の上の奇人を眺めるしかなかった。

素っ裸なのだから、他の登山者が来ると問題である。
私と弟は手分けして、左右の登山路を見張った。
Mは小一時間ばかり全裸で日光浴していたが、不思議なことに一人も他の登山者が来なかった。

私と弟は見張りに疲れ、Mの奇行に戸惑っていた。

Mは満足げな表情で岩から下りてきて、少し赤く日焼けした尻にパンツを履きながら、口笛を吹いていた。
「実は、俺は【痔ろう】なんだ。病院で治療してもなかなか治らない。やはり太陽光だろう!それも太陽に近い場所の紫外線が効きそうだ。地蔵岳にも寝転べそうな岩があったけど、あそこは【痔増岳】だしな」

数年後、Mは故郷に帰り教師になった。

薬師岳での太陽光(強烈紫外線)プラス岩盤浴(自然石放射熱)の効果もなく、彼は結局痔ろうの手術をしたとの便りがその後に届いた。

薬師岳の岩石の効能は虚しく、やはり【痔増(地蔵)岳】のほうが、マイナスパワースポットとして霊力があったかもしれない。

(このお題、完)

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2019年01月23日