ボス猫捕獲大作戦 [2]

ボス猫捕獲大作戦(2)

【ヨコヅナ】にやられた傷をおして、我が家のタマは次の夜も、その次の夜も出かけていった。
そして必死で夜の町をメス猫を求めて鳴き歩いた。結果は悲惨であった。

タマはそれから3日連続で【ヨコヅナ】に追い回され、(身内の立場としては大げさではなく)まさに毎日命が危ないのではと思うほどやられて帰ってきたのであった。
タマの身体はあちこち血が流れて傷だらけで、私は本当に可哀想で涙があふれた。

いじめられて可哀想なのと、そんな危険を冒してでも外に鳴きに行く(メス猫を探しに行く)姿がなんとも哀れだったのだ。
(私がもう少し大人だったら「ああ身につまされる」ともっと強く感じただろうが、まだ子供だった私にはタマのそこまでの熱意は不可解だったが…)

言うまでもないことだが、愛情というものは感情に起因するがゆえに必ず偏っており、論理を超え、時に善悪道徳を無視するときがある。(でしょ?)
私のタマに対する愛情もそうである。

私は、
「このままではタマは猛獣である【コヨヅナ】殺される。なんとかせねば!」
とタマへの愛ゆえに、ある決断をしたのであった。

「【ヨコヅナ】を排除する!」

猫にも人権(猫権)がある。
だからこれは私の身勝手である。それは認める。が、しかたないのだ。偏愛なのだから。

【ヨコヅナ】がタマを攻撃する理由について、私は猫ではないし当事者でもないから、私にはわからないが、最近までそういうことが無かったことから考えて、この『猫の春(サカリ)』でのメス猫争い(【ヨコヅナ】の恋人猫に言い寄った?)なのか、それに関係することに原因があるらしいのは間違いなかろう。

タマがなにか猫世界のルールを破ったのかもしれないし、単に猫から見ても、毎夜見苦しく鳴き騒ぎ過ぎたのかもしれない。
あるいはただ単に【ヨコヅナ】の機嫌が悪かっただけかもしれない。

猫の抗争は私にはわからないことであるし、そもそも人間の私がこの件に口出しすべきではないだろう。
動物世界はやはり弱肉強食だし、猫のケンカに人間が出るのは極めて卑怯なことである。

が、このままではタマは【ヨコヅナ】にその気がなくとも殺される可能性がある。
これは非常時の非情にならねばならないのだ!

もちろん猫好きの私であるから、いかに憎い相手とはいえ【ヨコヅナ】を傷つけるようなことは一切考えてはいなかった。
「他所に行ってもらおう」
ということである。

「【ヨコヅナ】くらいのヤツなら、どこに行っても生きていけるはず。ヤツには悪いが縄張りを替えてもらおう」
ということである。

具体的に言うと、【ヨコヅナ】を捕獲して自転車で大きな川の向こうの町まで運んで釈放し、平和的に移住してもらおう、ということである。
私は私で、悩みいろいろと思案した解決法であった。

先ほども書いたが【ヨコヅナ】は猛獣並なのである。ただの猫などと考えるのは甘い。
身体が子犬くらいあるし、力もスピードも規格外だ。

が、猫は猫だ。
サバンナのライオンや密林の虎ではないだろう。なんとかできるはずだ。

私は丈夫な蜜柑輸送用のダンボール箱をガムテープで頑丈に補強し、その側面に猫がギリギリ入れるくらいの四角い穴をあけた。
そして別のダンボールをその四角い穴より大きく切り、それを箱の内側に上部だけをガムテープで貼って固定した。
そこから中には入れるが出ることはできない、という単純な仕掛けである。

猫は賢いので箱の中に入って閉じ込められても、その後にじゅうぶんな時間さえあれば、前足の爪でその内蓋を手前に引いて隙間を作り、そこから逃げ出すだろう。
だから、その装置をただ放置していてはダメである。

猫が(この場合は【ヨコヅナ】)がその箱に入った瞬間、すぐにその入り口を塞いでしまう必要がある。
ということは、【ヨコヅナ】がその捕獲装置(入り口に仕掛けをしたダンボール箱)に入るところを私は見張っていなければならない。
入ったところを確認したら、私が駆け付けて、ダンボールの穴をすぐ塞ぐのだ。

実は、私がこの計画を思いついたのは、【ヨコヅナ】は大胆な行動を知っていたからであった。

ヤツはタマを毎夜、我が家の裏の戸口まで追いかけてきていたが、追って来た勢いで戸口から家の中にまで入ってきていた。
それで中の様子がわかったのだろう。
そのうちタマを追いかけることもなく単独でぶらりとやってきて勝手に家に入り、タマのご飯を食べるようになっていた。

大胆なヤツである。
この大胆さを私は好むが、この場合はタマの食事を盗み食いしているわけだから許すことはできない。タマに対して暴力とカツ上げをする不良猫である。
ますます許せん!

そう。その【ヨコヅナ】の習慣的行動は利用できるはずだ、と私は考えて、この捕獲作戦を立案実施したのだ。。

私は製作したボス猫捕獲装置(入口付きダンボール箱)の中に、猫の好む食品を置き、それで【ヨコヅナ】を箱の中に誘うことを企だ。
さてこの幼稚な作戦は功を奏するのか?

(つづく)

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2018年07月02日