(大昔の)大阪万博の苦い思い出 [8]


(大昔の)大阪万博の苦い思い出 [8]

子供らしく困難に立ち向かうという大志を抱き、コンパニオンのお姉さんのアドバイス(指令)を無視し、一番遠くの小さな筒にボールを投入すべく、小学生の私は、
「まっすぐ!まっすぐ!」
と、【音声認識によるコンピューター制御のボールを保持した移動体】に命令を発し続けた。

移動体は、かなりゆっくりと、天井のレールにぶら下がって進んで行く。
動く速度が速すぎると、方向を変えるポイントを行き過ぎ、言葉(音声)による指示が間に合わないからである。

観客は、それまでの子供と違う、私の自由な(コンパニオンの指示を完全に無視した)プレーに、どよめいていた(はず)。
私は、その段階で、すでにヒーローなのであった(はず)。

その時の私の気分をわかりやすく表現すれば、
『悪者に騙されて、牢屋に鎖でつながれていた英雄が、今、鎖と檻を破壊し、世の人々を救うために太陽の下に現れたのだ!』
である。
(おおげさ!)

とはいえ、英雄は、悪者に行く手を阻まれるものだ。

「あらぁ、遠くの筒は難しいから、手前のものにしましょう。さぁ、一回ここで止まったほうがいいわよ」
と、コンパニオンのお姉さんが、やや険しい目つきで、私にささやいた。
ささやくといっても、マイクで観客に聞こえるように『ささやく』わけである。

人々は、
「あらっ、お姉さんが毎度のように、(でも今回はちょっと強い口調で)指示を出したわよ」
「ほんとじゃ、このガキ(私のこと)、どうするんじゃろ?」
「そもそも、あんな遠いところだと位置よくわからんし、ボールが入れられるわけないだろ」
「いや、それをやりたいという心意気がだいじなのよ」
などと盛り上がっていた(はず)であった。
(私はプレーに集中していたので、周囲の様子はよくわからなかったわけだが、そうだったに違いない!)

「あっ、キミ、そんなに行くと…。私のアドバイスを聞かないと…」
コンパニオンのお姉さんの声が、明らかに険しくなっていた。
(と、後で観ていた叔父が言っていた)

ここまで、文章では長いが、移動体がゆっくり進んでいるため、20秒くらいだっただろう。
だから、私の目指す、一番奥のところまで行くどころか、距離は半分も進んでいなかった。

コンパニオンさんは、マイクを通さず、小さな声で私に直接、
「止めなさい!」
と命じたが、私は聞こえないふりをした。私は自分のやるべきことに集中していたのだし。

そのとき…。

「あっ!」
と、私は視界の端で不審な動きを目撃した。
お姉さんが、(観客からは見えない)テーブルの下にあるボタンをこっそり押したのだ。

と同時に、私が順調に動かしていた移動体が、ピタッと停止した。
そして、それまでのゆっくりした動きが嘘のように、すごいスピードで勝手にバックをし、シュルシュルシュルとスタート位置まで戻って来るのであった。

私はあっけにとられて、声も出せず、それを見ていた。
観客も、
「えっ、なになに?」
という驚きとともに、それを見ていた。
それまでの子供たちのプレーで、そういうことは一切なかったし、そういうことが起こることを誰もイメージできなかったからだ。

『音声認識で、コンピューターが人間の指示通りに移動体を動かす』
という当時では最先端のテクノロジーの凄さを見せる目的のアトラクションなのである。
これでは、科学技術のスゴサが疑われるではないか。

シュルシュルシュッルシュルシュル~、ピタッ!
移動体は、落とすべきボールを持ったまま、私の指示を無視して、元の位置に戻ってきて停止した。

私は、茫然である。

観客は、ややザワつき、
「なんだぁ、こりゃ。故障か?」
「途中で勝手に制御不能になるなんて、この子(私)がかわいそうじゃないの」
という感じである。

コンパニオンのお姉さんは、この『不測の事態(じゃないのか?)』にかかわらず、落ち着き払っていた。
にこやかな笑顔で、やや私に同情するように(同情するふり!)、マイクを通して力強く、こう言った。

「コンピューターが、怒ってしまいましたね!」

えっ?
コンピューターが…なに?

(このお題、つづく)

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2019年06月23日