ロサンゼンルスの迷子 [1](ゲーム開発者だった私はラスベガスの国際ゲームショーの視察旅行に…)

ロサンゼンルスの迷子(1)

私は、夜のロサンゼルス空港で私と黒人男性が握手している写真を見ている。
彼はロサンゼルスのダウンタウンで迷子になった私を空港まで届けてくれたタクシー運転手さんである。


この話は『方向音痴』というより『見知らぬ土地で迷った』という話なのだが、それを書いてみよう。

これもかなり昔の話で、ファミコンのゲーム開発をしていた頃、ラスベガスで開催された『国際ゲームショー(ゲーム関連の展示会)』(正式名称は忘れた)に視察に行ったときのことである。

その国際ゲーム展示会はとても大規模で、複数の広い会場で開催されていた。
世界のテレビゲーム界は日本が席巻しはじめた時代であったので、任天堂を筆頭に日本のゲーム開発会社が主役の催し物だったように記憶している。


そのとき在籍(ゲーム単位の任意契約だが、社内外的に社員扱いされていた)していた会社が視察旅行を計画していて、社長が、
「お前は連れて行ってやる」
と言うし、
「もちろん、オレも」
と名乗りを上げたのであるが、正直なことを言うと私はコンピュータゲームが特別好きなわけではなかたったし、この社長も好きではなかったので(悪い人ではないが、色々あってウマが合わなかった)、この展示会旅行にそんなに興味もなく、ほとんど何も覚えていない。

もちろん、ゲーム開発を仕事にしていたしゲーム開発そのものは面白いし嫌いではなかったから、楽しく見物はしたはずである。

ただ、そのほかの経験のほうが、より鮮明に記憶に残っていて、その一つがロサンゼルスでの迷子事件なのである。

こその視察旅行は、会社の社長、主任プログラマー、私の3人に、社長の友人であるK氏(六本木などで夜のお店を数店経営している若手実業家さん)を加えた4人連れであった。

K氏はゲーム業界には関係ないし関心もない人であったことからわかるように、この小旅行は『ゲーム業界の視察』を兼ねた慰安旅行ないし、任天堂のバレーボールで会社が成功したためのご褒美旅行でもあった。
(私が原作となるゲームを作り、主任プログラマー氏がファミコン版の開発を担当した)

なんといっても、場所がラスベガスだし、楽しそうである。

任天堂との契約で会社はかなり儲かっていたはずだが、旅費を浮かすために往復の飛行機は両方とも夜の便で機内泊であった。詳細はよく覚えていないが、成田の夜の便に乗り、到着した日はロスで1泊。翌日からラスベガスで展示会を視察して2泊。そして最後の日にロスに移動して夜遅くの便で帰る、というスケジュールだったように思う。

展示会のほかは、夜のロス市内漫遊とか、グランドキャニオン見物とか、ベガスのカジノで(K氏以外はこじんまりと)遊ぶというものである。

この小旅行ではいろいろあったのだが、ここはでは『迷子の話』だけをする。

最終日にラスベガスからロスに移動したとき、すでに時刻はお昼くらいになっていたが、夜の便までにかなり時間(8時間以上)があった。
そこで海岸のほうに行って昼食に蟹だったか海老だったかを食べて、そのあと観光船に乗ってみよう、などということになっていた。

だが、私は単独行動がしたかった。社長と少しケンカしていたのだ。
今考えるとムチャでとても自分勝手な行動なのだが、私は誰にも何も言わず、目に付いたバス停から路線バスに乗ったのである。

(私の昔の話が大体そうであるように、そのときもスマホどころか携帯電話さえなかった。何も言わずにバスなどで別行動をすれば、もう連絡などはできないのだ)

私は別行動をしたかっただけで、どこに行きたいとかどこを見たいとかいうことはなかった。ただ一人になりたかった。

そこで4人でぶらぶら歩いているときに見つけたバスの行く先を見て、ダウンダウン方面に行くことがわかったので、深い考えもなくそのバスに乗ったのだ。

小さな目的はあった。行きたいというほどでもなかったが、観光ガイドなどを読んでいたので、『リトル・トーキョー』でも見ようかと思ってはいた。
バスに乗った私は運転手さんに、
「リトルトーキョーあたりに行くか?」
と訊いた。

彼が首を傾げたので、もう一度ゆっくり言った。
すると彼が、
「その近くには行く」
と答えたので、
「その停留所で声をかけてほしい」
とお願いして彼の運転席のすぐ後ろに座った。

30分程度かそれ以上くらい経過した頃、運転手が「ここだ」というところで下車したが、方向音痴の私である。
そのうえ、外国である。

降りた瞬間、私の中の地軸が逆回転し、目の前の空間が曲がり、私の身体感覚として、自分がどこにいるのか、もうなにがなんだかわからなくなった。(いつものこと)

(つづく)

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2019年01月18日