北海道の牧場・子牛の出産 [2]

北海道の牧場・子牛の出産(2)

さて、その牧場での、だいたいの生活スケジュール。
まずは朝4時半ころ起床。日本列島のほぼ最東端だから、夏だと4時頃にはもう空がうっすら明るくなっている。

5時から7時まで2時間が朝の搾乳。
朝食後8時から12時、13時から17時の間は牧場仕事である。
牧場仕事とは主に冬季の飼料として貯蔵する牧草確保集めで、刈り取った牧草をそのままサイロに入れて発酵させるものと、刈り取りながら梱包(四角い牧草の塊)にして牛舎の階上に積み上げて保管するものがある。

他には牧場の境界線の杭打ち、自家用の畑の耕作等もたまにある。
杭打ちは、なかなか打ち込めない粘り気のある土壌に、大きな木槌で一日に数百本も打ち込んだため、夕飯時に茶碗も持てないくらいになったこともある。
若かったし、筋肉がいくらでもつくはずである。

牧草地で働いていても、お昼は家に帰って食べる。
15時には『おやつタイム』があって、牧場に寝転がってお菓子や果物を食べた。

17時前に牧草地から家に帰って、19時まで搾乳。
そのあと夕食、お風呂、子供たちと遊んで就寝、となる。

子供たちがすぐ仲良くなってくれたので、毎晩トランプなどしてなかなか寝させてもらえなかったが、若く体力もあったので翌日に疲れは残らなかった。
ただ朝はすごく眠かった。

ちなみに休日は農家個々の事情によるが、週1日程度。
一日、農協主催の慰安バス旅行があり、摩周湖、阿寒湖、屈斜路湖を巡った、

日給はたしか、2600円だったと記憶している。

三食が本当の遠慮なしの食べ放題で、一日中ずっと肉体労働なので、私は1ヶ月で5~6キロも増量した。
それ以前は、だらだらした生活をしていたから体脂肪もかなりあったのだが、それがなくなった上での体重増であるから、実質の筋肉増大量はかなりのものだったろう。
若いっていいな…。

さて、昼間は牧草地で作業するが、朝夕2回の定時搾乳がある。
牧草地での作業も、フォークの使い方に慣れることなどに戸惑ったが、搾乳作業は生きた巨大な牛相手なので要領がわかるようになるまで数日かかった。

そもそも牛という生き物は、小さな子供の頃に親戚の農家で数回見たことがあるくらいだけだから、20数頭のホルスタインが牛舎内に並んでいる光景に、最初はびびってしまった。

まず、牛たちはデカイ。
体重は600kgくらいあり、体高は150cm程度ある。
体重80kgの私が押したくらいでは、彼女ら(雌牛だから彼女)を動かすことはできない。

牛たちは、あの大きな目で、しっかり人を観察している。
私が新米だということを彼女らは知っているから、最初の数日は、
「こいつ、誰よ?」
って感じなのである。

搾乳作業中に、彼女らは、あきらかに私を挑発するためにというか、からかうためにというか、小バカにしたような態度をとるのである。

牧場で休んでいるとき、牛はお腹を地面につけて寝転がる。そのときに乳房も地面につく。
だから搾乳前には必ず、牛の乳房や乳首をキレイに拭いて消毒殺菌をしなければならない。

乳房を拭くときや、搾乳器を取り付けるときに牛の横や後方から近寄るのだが、そのとき彼女らは尻尾でバシッと軽く、私の顔をひっぱたくのである。もちろん、わざと。
牛がそれを意地悪で意識してやっているというのは、よ~くわかる。

牛は眼が頭の横のほうにあるので、首をそれほど曲げなくても後方が見やすい。その眼で私をずっと私を観察している。
私が乳房を拭こうと近づいたり屈んだりすると、そのタインミングで私の顔を尻尾で、バシッ!とやるのだ。

もう一度、言う。
わ、ざ、と、だ。

私がキッと牛をにらむと、牛は「へへへ」って感じで、なんとなく笑っているような表情をする。(気のせい?)

はじめは私は牛たちに遠慮していたが、(怖いからビビッていたというより、平和的に友達になろうという意味での遠慮)、そういうふうに何度も『わざと』バシバシやられると、こっちだって腹が立ってくる。
だから私も牛の身体をパンパン叩いて応戦するようになった。

まあ、それも必要なコミュニケーションなのである。
大人が赤ちゃんに張り手をされても全然痛くも痒くもないように、私が牛を(愛情をこめて)少々どついても彼女らはなんともないのだ。

そのようにして私は少しずつ牛たちとも仲良くなっていき、酪農家の仕事にも慣れていった。

(つづく)

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2018年07月09日