ボス猫捕獲大作戦 [4]

ボス猫捕獲大作戦(4)

私は捕獲失敗の原因を考慮し、改良したダンボール箱で、再度【ヨコヅナ】の捕獲に挑戦した。
結論から言うと、数日後、まったく同じ方法で、私は【ヨコヅナ】の捕獲に成功したのであった。

それにしても、このエリアで番を張っている、賢いはずの猫が2度も騙されるはずはないのだが、なぜか【ヨコヅナ】は再びひっかった。
たぶん、おびき寄せに使った焼き魚が大好きだったのだろう。

あるいは、
「人間のガキの用意したダンボール箱など、何度でも破壊して逃げてみせるぜ」
という自信だったのか。

しかし、人間のガキも愚かではないのだ。
私は、再チャレンジのため、さらに強度のあるダンボール箱を2つ用意した。
それを【箱in箱】の2重構造にして、外布製ガムテープで何重にも念入りに外側をぐるぐる巻きにした。
前回に逃げ出されたときの恐怖と怪我をする危険性を念頭に置き、徹底的に箱を強化しておいたのだ。

【ヨコヅナ】は、2度目も力の限り箱の中で暴れたが、もう箱が破れることはなく、ヤツは逃げ出せなかった。

捕獲から間をおかず、私は【ヨコヅナ】が入っている箱を自転車の後ろの荷台にくくりつけ、家から数キロ先の250mの長さがある橋を渡り、渡り切ってからも1キロくらい走り、民家が多そうなところで【ヨコヅナ】を箱から出し、解放した。

【ヨコヅナ】は箱から飛び出すと、ダダッと10mほど駆け出してピタッと止まり、チラッと私を振り返った。
そして、
「まあ、いいさ」
って感じで、ゆっくりと空き地の向こうに去っていった。堂々としていた。
またしても実にかっこよかった。

「ごめんな、でもお前はたぶん野性の本能でタマを殺してしまう。ここなら家もたくさんある。食べれるゴミもたくさん出る。お前ならこのあたりを仕切って生きていける。ほんとにごめん」

私はほっとした気持と申し訳ないような気持をごちゃごちゃに感じつつ、自転車を漕いで家に向かった。

そのうち、タマの夜鳴きはおさまった。体内で出ていた妙なホルモンが切れたのか、相手が見つかりうまくいったのか…。

私の腕の傷もふさがりつつあった。
平和な日々が戻ったのだ。

ところが…、

数日後の学校の帰り道、私は家の近くまできたとき『亡霊』を見た。

向こうの平屋の一軒家の屋根の上に、居ないはずの【ヨコヅナ】がいるのである。
「まさか!」である。

動物は本能的勘で元の巣に戻るという。
事実、数百キロを戻った飼い犬もいるらしい。猫もか?

【ヨコヅナ】を放したところは、自宅付近から4キロくらい先。
距離的には遠いとは思えないわけだが、その間には250mもの長さがある橋がかかっている。その橋は路幅も広く車も多く通過する。
歩道はあるが、そこを猫がトコトコ歩いて渡るとは思えない。(犬なら歩くだろうけど…)

しかし、そういう可能性がないわけでないし、もしかしたら車の荷台に乗って、橋を渡ったのかもしれないではないか…。

もしヤツが戻ってきたなら一大事である。
またタマは重傷を負わされるかもしれない。復讐のためもっと激しく…。
そして、ヤツはもはや同じ手では捕まらないだろう。
ふ~むむ、である。

とはいうものの、私は何か違和感を感じていた。
私は【ヨコヅナ】らしき猫がいる建物に、ゆっくり近づいてみた。できるだけ気づかれないように。
その間、じっと屋根の上の猫を観察した。

「違う…。【ヨコヅナ】じゃない…」
体型も柄の感じも瓜二つであるが、その猫は【ヨコヅナ】ではなかった。

よく見ないとわからないが、身体はやや小さめで毛並みがなんとかく若いのだ。白黒の柄の感じもかなり似ているが違う。
私は猫が好きでいつもいつも色んな猫を見ているから判別できるのである。

私は観察を続けながら考えた結果、この猫は【ヨコヅナ】の息子(の一人…一匹)であろうと結論した。

猫好きならわかる。勘ではあるが確信といえる。
あの【ヨコヅナ】ではないことは確かだった。
ヤツはあそこから帰って来てはいない。

おそらく今までもこの息子はこのあたりにいたのだが、まさか息子がいるとは考えない思い込みもあるし、いつも遠めにしか見ていなかったから、私は息子も本物の【ヨコヅナ】と混同し、一匹の猫だと思っていたのだろう。

それにしても…本当にそっくりだ。
これはもしかしたら、『一難去って、また一難』なのか?

私はため息をつきつつ、家に帰った。

家の中の座布団の上で、ケンカの弱いタマが丸まって寝ていた。
過保護は毒ではあるけれど、いざとなったら、また私がこのケンカの弱い猫を護らねばなるまい!

私はそう自分に言い聞かせるのであった。

(このお題、完)

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2018年07月02日