禁煙 への道[1] (ヘビースモーカーの私は、『オオカミ少年』)

禁煙(1)

私は十数年前にタバコをやめてから1本も吸っていないが、それまでまずまずのヘビースモーカーであった。

世間に禁煙機運など無い時代だったので高校時代に吸い始め、20代半ばに仕事がコンピュータゲームの開発になってからは、もう最悪で、作業中はずっとパソコンの前で吸い続けた。
作業部屋の壁も窓も備品も黄色く変色するほどであった。

いわゆるチェーンスモーカーなので、吸いたいから吸うというより、吸いたくもないのだが惰性で次々と煙草に火をつけるのだ。

仕事柄、徹夜が当たり前のような生活であったし、若くて体力もあったので平気で36時間くらいは一睡もせず仕事をしていた。(そのあと爆睡するけど)

長く起きているので次に寝るまでの間に、4箱でも5箱でも吸う。
もちろん依存症であったろうが、ニコチン摂取をしたいうんぬんではなく、ただただマズイ煙草の煙を(苦痛さえ感じつつ)吸い続けていたのである。

ともかく睡眠中以外は、ずっと吸い続けるのだから体調は最悪となる。
とくに寝起きは頭がガンガンするし、吐き気もする。たぶん酸欠で脳細胞も加速度的に死滅していただろうし、毛細血管の血流も低下し、肺にはタールみたいなドロドロが蓄積されていただろう。

そういう喫煙生活を20数年も続けていた。
もちろん、当人的には、
「煙草をやめたい」
のである。

吸っている人であればわかることだが、煙草を吸っていても何も良いことはないからである。

「今おまえは煙草をやめているから、今、偉そうにそういうことを言っているのだ」
と思われるだろうが、そういうことではない。
一日何箱も煙草を吸っているときから私は日々、『煙草に良いとロコは何もない』と感じていたし、周囲にも自分から、そう言っていた。

「なんとか吸うのをやめたい。体調がすっきりしない」
と、毎日毎時毎分、感じていたのである。

そこまで自覚があるなら、やめればいい。簡単なことである。自分もそう望んでいるのだ。
しかし中毒だから、どうしてもやめられない。
(まあ言い訳だが…依存症とはそういうもの)

私は何度も喫煙用具を全部捨て、持っていたタバコを水浸しにしてゴミ箱に投げ入れたりしたが、まったく無意味だった。
数時間すると自動販売機に走っているのだ。
情けないとは思うのだが、そうなるのである。

そして数時間(睡眠を挟めば十数時間)の一時的な禁煙ののち吸った1本は最高に美味いのである。

が、2本目にとなると、もう吸っててマズくなってくる。
軽い吐き気もする。そして自己嫌悪を感じる。
「ついさっきやめようとしてたはずが、また吸ってるじゃないか。オレってなんなのよ…」
である。

3日間だけとか1週間だけとかなら、それまで超短期間の禁煙できることがあったが、それは続かず、どうしてもまた吸い始めてしまう。
健康リスクがどうとか、がんがどうとかいう以前の問題で、日々の隊長そのものがすでになんともいえず悪いのである。

「吸いたいから好きで吸うのだ」
と思っていて、それがある日突然、
「禁煙したい」
と変わったのではなく、私の場合は終始一貫して
「煙草をやめたい。今日も体調が悪い」
と思っているのにやめられないのである。

今考えるに、なにやらそうとうに恐ろしい事態である。

年号が昭和から平成になるとき、私は何度目になるのかわからない禁煙をまたまた決意した。
それまでと異なっていたのは、誰にも要求されていないのに自分で誓約書を作ったことである。
私はA4用紙を机の上に置き、手書きで

今日で禁煙します。 もしこの誓いを破ったならば、いかなる罰を受けてもかまいません。

としたため、日付と氏名も書き加え、実印と母音を押した。大袈裟である。
こういう大袈裟なことをするときは、すでに頭がおかしいのであって、こういうことをする人間を信じてはいけない。

私は妻のところに行き、その誓約書を差し出した。一応、妻充ての誓約書のつもりなのである。
(つまり、妻を監視人とするわけだ。妻にとっては迷惑)

妻は「なんなのよ」という表情で、それを見た。
妻はそれを一読し、
「本気?」
と聞いた。
当然である。
それまで私が何度も「禁煙する」と口頭で宣言してことがあったからである。

妻はもちろん、それまでもずっと私に、
「禁煙しなさい!」
と、ずっと強い口調で警告していた。
だから、私の禁煙は大歓迎である。

しかし、妻にしてみればまったく信じれるものではなかった。
実際それまでの私はことごとくが、
『気が向いたからちょっと言ってみただけ禁煙』
であり、翌日には平然と吸っていたからだ。

が、今回は【誓約書】である。紙である。署名と捺印もある。
そのうえ年号が変わる節目である。

最初の誓約書であったこともあり、妻はとりあえず私の決意を信じたいようだった。

「この、いかなる罰をも…って本気?」
「本気だ」
「へぇ」
「それくらいの覚悟だ」
「わかったわ」
妻はそう言って、その(私が勝手に思いついて書いた)誓約書を引き出しにしまった。

「ふ~ん…、今度は少しは本気みたいね」

(つづく)

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2018年11月07日