小切手帳【任天堂バレーボール原作者の悲喜劇】 [1] (世間知らずのゲーム開発者だった私は大金をつかみ損ねちゃって…)

小切手帳【任天堂バレーボール原作者の悲喜劇】(1)

この話は、そろそろ言ってもしてもいいだろう。
大昔のことだし、面白いし、ゲームバブル時代の一面がわかる話なので…。
(ほかにもあるけど…)

この話(もちろん事実)は、若い一人の世間知らずのゲーム開発者が、老練な人間に『してやられた』、笑える悲話として、楽しく読んでください。
私も笑いながら書くので。

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その日、男が4人、テーブルに向き合って座っていた。

(そのうち2人は『オブザーバー?』として、そこにいたのだが、この後のことは、わかりやすく私と当時の社長のやり取りとして書く)

私の前に座っている男が、ポイッと小切手帳をテーブルの上に放り投げ、
「好きな金額を書け。それをやる」
と向き合っている男に言う…みたいなシーンを、映画やドラマあるいは小説で、たま~に見る。

そんなことってあると思う?

もちろん、ないこともないだろう。
世の中には、いろんなことが起こっているし、たいがいのことは起こっている。たぶん起こっていないことなんてないんだろう。

私は30歳前に、それを体験した。

時はコンピューターゲーム・バブルの初期の頃である。
もちろん、気楽に小切手帳をポイッと投げるほどの財力は当時も今も私にはないから、私は”小切手帳を投げられた”ほう、である。

小切手帳を私の前に放り出した男は、私が形式的に所属していた(私は社員でなく独立したゲーム開発者で、ゲーム単位でのライセンス契約していた)小さなゲーム開発会社を乗っ取り社長になった、当時40過ぎの会計士だった。

私はこの男と仲が悪かった。というか私が一方的に嫌っていた。
といって彼は悪人とかではない。
たぶん大きな括りでいえば彼は【善人】だったと思う。
私は、彼を嫌いではなかった。

しかし、目の前のその男は、ゲームについて愛もなければ理解もない。いやそういうものの対象としてゲームや開発者を見ていなかった。

その男にとって、ゲームも開発者も、ぜんぶ【金儲けの手段】だった。

もちろん、そういう価値観もあるし、そういう人生観もあるだろう。人それぞれの勝手だ。
しかし、ゲームやプログラミングや開発者に対し、一片の愛もなく、金を産む手段とだけ見ている男が、ある日突然、債権者(管理者)として現れ、社長になるのである。
ある日突然である。

災難でしかない。

さて、放り投げられてテーブルの上にある小切手帳を、私はじっと見た。
小切手帳というものを初めて目の当たりにしたからだ。

それにしても、好きな金額を書け?
おまえは【何様】のつもりなのだ?

私は、
「これは良い話だなぁ」
とは一切思わなかった。腹が立っていた。
「この男は、どうにも気に入らない!」
ともかくそういう感情がこみ上げていた。
その感情を抑えるのに必死だった。

(つづく))

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2019年01月03日