恐怖!ゲーム発売後のバグ【ダブル役満(ゲームボーイ)】
恐怖!ゲーム発売後のバグ
私はゲーム開発を始めた初期のころは、パソコン用ゲームソフトを一人で作っていたが、人生の先輩で超優秀なプログラマーであるT氏と知り合ってからは、彼と長く組んでゲーム開発をした。
T氏のことを私はすごく尊敬しているし、彼のことを書きたい気持ちもあるが、それは別の機会にしよう。(T氏の助手として参加した【世界コンピュータ囲碁選手権】のことは、こちら)
T氏はアーケード版の麻雀ゲームなども手掛けていたため、私は彼と組んで(助手?として、グラフィックと作曲とサウンド関係を担当)、幾つか麻雀ゲームを作った。
ゲームボーイ版のものは、販売数も多く、ゲームの出来も好評だったと思う。
そういう評価は、すべてT氏のプログラムが素晴らしいためである。
さて、ゲーム開発中は、当然ながらバグのチェックは徹底的に行う。
が、特殊な条件の時に生じるバグは、どうしても発見できなかったりする。
基本的な考え方として、
「バグは全部取りたい。でもそうはいかない。だから、ゲーム途中で停止したり、ゲーム内容が突然異常進行したりするような【致命的なバグ】でなければ、まあしょうがないだろう」
と、開発者や販売者は考えるしかない。
いくら多人数で時間をかけてデバッグをしても、数10万の本数が売れて熱心に遊戯されると、デバッグの時には生じなかったレアな状況も発生し、多様で特殊なバグが出るのである。
よって発売されてしまうと、当分の間は【俎板の鯉】も気分になる。
「へんなバグが出ませんよーに」
と、発売後は、祈るしかないわけだ。
ゲームボーイ版麻雀ゲームを最初に発売して数日後、発売元の企画営業者から電話がかかってきた。時期的になんとも不吉である。
「出ました(苦笑)」
「出ましたか…」
「さっき買った人から電話があって、こう言うんですよ。
『俺はいわゆる”組”のものだが、仲間内でオタクのゲームソフトで賭け麻雀をしてる。さっき白牌が場に5枚出た。おかしいだろ?それで俺は大負けした。どうしてくれる。賠償しろ!』
そういうんですよ。ははは(苦笑)」
「はははは(苦笑)」
調べてみると、あるレアケースでは確かに白牌が5枚、場に出ることもあることが確認された。そう、れっきとしたバグである。
ふ~む。
幸いなこと?に、ハングアップ(途中でゲームが停止し再起動になる)するような致命的なバグではなく、本当にごく稀な条件でプログラムが判断ミスすることが分かった。
おそらく何十万人で毎日遊ばれても、めったに出ないし、出ても気が付かないことも多いバグだということだった。
が、バグはバグである。
こういう場合は、
「そのゲーム基板(あるいはROMなど)が、どうも製造不良かもしれません」(嘘)
と言って取り換えるという処置をする場合がある、と聞いたことがある。
もう一度同じバグが出る可能性は、極めて低いため、
「商品の交換で直った」
と思ってくれる人もいるらしい。
ほんとかな?と思うが、そういうのも営業手腕の一つかもしれない。
実際にそういうことが行われていたのか、私は具体的には知らない。あくまで噂である。
そもそも、致命的なバグでもない限り、買い手も、
「まあ、そういうこともあるから、しょうがない」
と思ってくれるし…。
しかし、人によっては、納得してくれないだろうし…。今回は相手が悪そうだ。
クレームが長引くのではないかと、なんとも胃粘膜が溶けるような気分だった。
数日して、その営業から、また電話があった。
「どうなりました?」
「仕様にしました」
「仕様?」
「ええ。普通の相手なら『ごめんなさい』という気持ちで対応するのですが、この人は恫喝して、弁償しろ!金を出せと!しつこい人なので、負けてられないと思って、『この麻雀ゲームは、そういうもんです』と言い切りました」
「そういうもの?」
「ええ。この麻雀ゲームは、【開発段階から意図して】、【仕様として】、【時々白牌が5枚出てくるサービスモードがある】と、いうことにしました」
「ほう…」すごいことを言い切ったもんだ。
「このゲームには正式な仕様として【役満モード】ってあるでしょう?上りが全部必ず役満になるという」
「そうですね。そういう遊びモードありますよね」
「だから、裏技というか非公式仕様として、楽しいサービスモードのときに【時々牌が5枚になる】と言い張りました」
「へぇ。サービスモード?」
牌が5枚出るのが、なぜサービスなのか?
そもそも、遊戯者の意志と関係なく、勝手に時にそういうサービスモードになるってわけだから、それは、う~ん?と、私は思った。
だからクレーム相手も、そう思うだろう。大丈夫なのか!?
「信念でそう言い続けると、相手も諦めました。あのバグも一回きりで、その後は何も問題なく遊べているようですし」
「まあ、そうでしょうね…」
「ということです。ではまた」
その電話の後、バグを気にして減退していた私の食欲がいっぺんに正常に戻った。
私はゲームの仕様も考える立場であったから、
「そうあれは、そういう仕様だった!そうそう、そういう意図した仕様なのだから問題ない。あれは【牌5枚探しゲーム】という【おまけモード】なのだ」
と、自分に言い聞かせながら、パクパクとその日の夕飯を大食いした。
この『リアル麻雀』は、流行に関係ない麻雀というゲームですし、作った我々が言うのもなんですが、本当にいいバランスで遊べる、今でも十分面白いゲームではないかと。m(_ _)m |
<--前 | Home | 一覧 | 次-- > |
<スポンサーリンク>