公立高校はたいへん:自主的オンブズマン [1] (スパイされてるの!?)

公立高校はたいへん:自主的オンブズマン(1)

【オンブズマン】とは、元々はスウェーデンで初めて設けられた行政監察官(『議会オンブズマン』)に由来するもので、その後いろいろな組織や業務等を監視する機能として様々な形式で採用されるようになったものだ。
たとえば、メディアの報道内容を監視するものは『プレス・オンブズマン】等。

大雑把に言えば、【その組織の外部からその組織の活動を監視し報告する】機能や人のことであろう。
重要な理念であり、必要な仕組みであることは間違いない。

私が1年間ほど公立高校で仕事をしたという話は時々書くのだが、そのときのことである。

面接時と採用時に私は(私はというより被採用者は全員)学校側から就業にあたっての心構えや注意事項の説明を受けた。
その内容は、一般常識というだけのものもあれば、学校という仕事場の特徴や特殊性、あるいは学校ごとの個別事情などに関するものなどである。

それをあえて単純にしてしまえば、ポイントは次の3要素である。
(1)教育機関であること
(2)生徒が未成年であること
(3)公立という公的機関であるということ

これらの事柄に基づいて、細かな行動規範や禁止事項や遵守事項などが規定されているわけだ。
当然のことであり、私は真摯にそれを心に刻み、通勤時から帰宅時まで、あるいは学校の施設にいるとき以外も行動に注意を払った。

私の上司であるIT担当の教諭が、私にそういう注意点の説明を細かくしたあとに言った。
「まあ普通に常識的にやっていれば問題はないですから、そんなに緊張する必要もないですよ。生徒のことをまず考えて慎重に行動すればいいだけです」
「わかりました」
「ははは、緊張してる?」
「はい、学校は初めてですから…」

慣れない仕事であったが、私は徐々に要領を覚え、日々楽しく生徒たちと過ごしていた。
そんなある日である。IT担当の上司が印刷した試験問題を私に渡して言った。

「そうそう、そろそろ中間試験があるので試験問題のチェックを手伝ってください。試験問題は決して校内から持ち出してはいけません。チェックがすんだら私に返却してください」
「はい、わかりました。それでどういうチェックをするんですか?」

「’てにおは’、はもちろんですが、問題文を読んでみて変じゃないかとかです」
「変っていいますと?」
「問題文が文としての意味にわかりにくいところがないかとか、言葉使いが間違っているとかです。生徒の立場で読んでみて、生徒に不利益がないかどうか、ということです」
「ははあ、生徒の立場ですか…」

実のところ私は、
「生徒の立場で読んでみて」
というところがピンと来なかった。わかるようでわかりにくい。

そんな私の戸惑いを感じた上司は、ひそっとした声でこう付け加えた。
「実はこの試験問題は学校外部の人も見ます」
「そうでしょうね。採点後に子供が家にもって帰るでしょうから」
「まあそうですけど、もっとたいへんでして…」
「?」

「学校は、というか我々は監視されています。あ、悪い意味ではないですよ。監視というか、そう市民に見られているんです。税金で運営されていますから」
「それはそうでしょうね。公立だし」
「この学校の近くというか、すぐ前に住んでいる方がいまして、その方が夏休みなども含めて毎日、この学校の職員の出入りをチェックしているんです」

「チェック?職員の出入りを?全部?」
「そう、その人は自宅の窓から一日中この学校の門を観察していて、誰がいつ入っていつ出たかを記録しています」
「えっ!ほんとですか?」
「本当です。毎学期、その方からの報告書が学校に届きますからね」
「報告書?」

「ええ、いわば自主的市民オンブズマンです」
「自主的オンブズマン?」
ふ~む、世間にはいろいろな人がいるらしい。

「その方は、『この先生は退勤時間がいつも早いがクラブ活動などはしないのか?』とか、『この職員は休みが多くないか?』などの質問状を、実際の自分の観察データとともに提出されたりします」
「こわい…いや、ありがたいですね。子供たちの教育のために、そんなに熱心に…」

ふ~む。オレのことも、どこからか、じっと見ているということか…。

(つづく)

<--前 Home 一覧 次-->


<スポンサーリンク>

2019年01月02日